リュウグウノツカイ

一条真也です。

チリの大地震のニュースには驚きました。
なにしろ、マグニュチュード8.8です。
死者は少なくとも122人と、今朝の「朝日新聞」に出ていました。
(その後、死者400人以上を確認)
テレビをつけると、日本にも大きな津波が来るというニュースで持ち切りです。
地震の凄まじさが日本人にも実感できたのではないでしょうか。

ところで、興味深いのは「スポニチ」の2月22日の記事です。
昨年末から、深海魚「リュウグウノツカイ(竜宮の使い)」が日本海側を中心に相次いで見つかっているという内容です。
国立科学博物館では、リュウグウノツカイ硬骨魚類に分類しています。
外洋の深さ約200メートルから1000メートルに棲息するそうです。
体長は5メートル前後が多いようですが、10メートル以上の記録もあるとか。
わたしも、北九州市の「いのちの旅博物館」などでその姿を見たことがあります。
蛇のように細長い胴、頭から伸びる赤いひれが特徴的です。
泳ぐときに波打つ長い背びれから、人魚のモデルではないかという説も有力です。


           『世界大博物図鑑2 魚類』荒俣宏平凡社)より


わたしが監修した『世界の幻獣エンサイクロぺディア』(講談社)にも書いてありますが、日本の人魚思想は中国の伝承の影響を色濃く残しています。
すでに『日本書紀』には、推古天皇の時代に摂津の国(大阪府)で、怪物のような顔をした人魚が漁師の網にかかった話があります。
その後、八百比丘尼などのように、人魚の肉を食べれば長生きできるという伝説も生まれました。
「人魚」という用語が記されたのは鎌倉時代からで、『古今著聞集』には、伊勢国三重県)別保の浦で獲れた怪魚を「人魚」としています。
わたしは、西洋の人魚のモデルがジュゴンなら、日本の人魚のモデルがリュウグウノツカイだという可能性は大いにあると考えています。
それほど、リュウグウノツカイの姿はこの世のものとは思えぬほど幻想的です。
何より、「竜宮の使い」という名前自体が中国の神仙思想の強い影響が見られます。

リュウグウノツカイは遠浅の海岸にはめったに現れないため、詳しい生態は不明です。
しかし、この冬は日本海沿岸で網に掛かったり、漂着するケースが相次いでいる。
専門家も「なぜ今年は多いのか」と首をかしげているそうです。

スポニチ」の記事によれば、富山県では昨年12月、黒部市の海岸に1匹が漂着。
今年に入ってからも高岡市入善町の沖合で定置網に1匹ずつ掛かったそうです。
石川県では、能登半島の千里浜海岸などに1〜2月に少なくとも4匹が漂着。
京都府宮津市では年末年始の2カ月間で定置網に10匹が掛かった他、岩手、兵庫、島根、山口、長崎の各県でも見つかったそうです。

スポニチ」には、京大舞鶴水産実験所の甲斐嘉晃助教授(魚類体系学)の談話が掲載されています。
甲斐助教授は「売れる魚ではなく、網に掛かっても漁師が海に放すことが、これまでもあった。しかし今年ほどたくさん揚がるのは、聞いたことがない」と話しています。

さて、ここが重要なのですが、リュウグウノツカイ漂着は地震の前触れという言い伝えがあるのです。
地震の予兆現象を調べているNPO法人「大気イオン地震予測研究会」の弘原海清理事長(環境地震学)は「一般的に海底近くの深海魚は、海面付近の魚より活断層の動きに敏感」と話しています。しかし、他にに地震の前兆とみられる現象は報告されていませんでした。
記事は、「リュウグウノツカイも広範囲で見つかっているため、弘原海さんは『今のところ地震に直結するとは言えない』と懐疑的。」と結ばれています。

いやあ、本当に驚きました。
やはり、リュウグウノツカイの漂着は地震の前触れだったのです!
それも巨大地震の前触れでした。
自然にはまだまだ多くの神秘が隠されていることを痛感しました。
言い伝えや伝説というものには真理が潜んでいるのかもしれません。
チリでの犠牲者の方々に心から哀悼の意を表したいと思います。
願わくば、津波での犠牲者がゼロでありますように。


2010年2月28日 一条真也