隣人祭り

一条真也です。

無縁社会」が非常に大きな話題となっています。
NHKでの一連の放送や、雑誌での特集記事など、その波紋は広がる一方です。
では、わたしたちは「無縁社会」にどう向き合えばよいのか。
さらに言うなら、どうすれば「無縁社会」を乗り越えられるのか。
わたしは、その最大の方策の一つは、「隣人祭り」だと思います。
隣人祭り」とは、地域の隣人たちが食べ物や飲み物を持ち寄って集い、食事をしながら語り合うことです。都会に暮らす隣人たちが年に数回、顔を合わせます。


                    [隣人祭り」は食事会


隣人祭り」は、今やヨーロッパを中心に世界30カ国以上、1000万人もの人々が参加するそうです。
その発祥の地はフランスで、パリ17区の助役アタナーズ・ペリファン氏が提唱者です。
きっかけは、パリのアパートで1人暮らしの女性が孤独死し、1ヵ月後に発見されたことでした。ペリファン氏が駆けつけると、部屋には死後1ヵ月の臭気が満ち、老女の変わり果てた姿がありました。
同じ階に住む住民に話を聞くと、「1度も姿を見かけたことがなかった」と答えました。
大きなショックを受けたペリファン氏は、「もう少し住民の間に触れ合いがあれば、悲劇は起こらなかったのではないか」と考えました。
そして、NPO活動を通じて1999年に「隣人祭り」を人々に呼びかけたのです。



第1回目の「隣人祭り」は、悲劇の起こったアパートに住む青年が中庭でパーティーを開催し、多くの住民が参加し、語り合いました。
そのとき初めて知り合い自己紹介をした男女が、その後、結婚するという素敵なエピソードも生まれました。
最初の年は約1万人がフランス各地の「隣人祭り」に参加しましたが、2003年にはヨーロッパ全域に広がり、2008年には約800万人が参加するまでに発展し、同年5月にはついに日本にも上陸しました。
4日間、新宿御苑で開催され、200人以上が集まったそうです。



日本でも孤独死は増えています。
全国に約77万戸ある都市再生機構の賃貸住宅では2007年度に589人が孤独死しました。じつに5年前の2倍で、その7割近くを高齢者が占めています。
隣人祭りが発展した背景には、孤独死の問題はもちろん、多くの人々が行きすぎた個人主義に危機感を抱いていることを示しています。
アタナーズ・ペリファン氏と共著『隣人祭り』(ソトコト新書)を書いたフランス在住のジャーナリストである南谷桂子氏は、「朝日新聞」2008年8月16日の朝刊で、「一度でも言葉を交わしていれば『感情公害』と呼ばれる近隣トラブルは減るし、いきなり刃物で刺すような事件もなくなるはず」と語っています。
また、ペリファン氏は『隣人祭り』の「著者の言葉」で次のように述べています。
「人間には、誰にでも潜在的に寛大さというものが備わっている。ではなぜ、それを覆っている殻を打ち破って寛大さを表に出さないのだろう。人は誰でも問題を抱えているものだ。その問題を解決するには、自分以外の誰かの善意がきっと役に立つはずだ。人間の良心だけが、人間を救える唯一のものだと僕は信じている」



隣人祭り」は、なぜ成功したのでしょうか。
日本経済新聞」2008年8月30日夕刊にフランスでの成功のステップが4つにまとめられているので、紹介したいと思います。

1、人と出会い、知り合う。親しくなる。
2、近隣同士、ちょっとした助け合いをする(パンやバターの貸し借りなど)
3、相互扶助の関係をつくる(子どもが急に病気になったが仕事で休めないとき、預かってもらう環境をつくるなど)
4、より長期的な視野で相互扶助をする。(複数の住民で協力し、近所のホームレスや病人の面倒をみたりするなど)



これを見ると、「隣人祭り」のキーワードは「助け合い」や「相互扶助」のようです。
それなら、多くの人は日本に存在する某組織のことを思い浮かべるのではないでしょうか。そう、互助会です。正しくは、冠婚葬祭互助会といいます。「互助」とは「相互扶助」を略したものなのです。
わたしはフランスで起こった隣人祭りと日本の互助会の精神は非常に似ていると思っています。わが社はまさに互助会であり、わたしは互助会の全国団体である全互連の副会長を務めています。
いまや全国で2000万人を超える互助会員のほとんどは高齢者であり、やはり孤独死をなくすことが互助会の大きなテーマとなっているのです。
早速、互助会であるわが社では、2008年10月15日に北九州市八幡西区のサンレーグランドホテルで開催された「隣人祭り」のサポートをさせていただきました。
サンレーグランドホテルの恒例行事である「秋の観月会」とタイアップして行われたのですが、これが九州では最初の「隣人祭り」となりました。
日本で最も高齢化が進行し、孤独死も増えている北九州市での「隣人祭り」開催とあって、マスコミの取材もたくさん受け、大きな話題となりました。
その後も、わが社はNPO法人「ハートウエル21」と連動し、「ハートフル・フェスタ」と名づけられた「隣人祭り」のお手伝いを各地で行ってゆくことにしました。
昨年は約190回を開催し、今年は300回以上の開催を予定しています。

   

                北九州市で開催された「隣人祭り
           

隣人祭り」が起こる直前のフランスでは、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が国家的事業として推進されていたそうです。
SNSといえば、日本では、ミクシィなどが代表ですね。
このサービスがフランスで大流行した反動で、リアルな対人コミュニケーションが激減しました。そして、孤独死が爆発的に増えたため、社会的要請において「隣人祭り」が生まれたというのです。
まさに、日本の現状そのものです。
ITが進歩するばかりでは人類の心は悲鳴をあげて狂ってしまいます。
ITの進歩とともに、人が集う機会がたくさんある社会でなければなりません。
隣人祭り」は、人間尊重思想の実践である「天下布礼」の大きな柱です。
でも、注意すべきは「孤独死の防止のために」とか「ストップ!無縁社会」などと、あまり肩に力を入れないことです。
季節の年中行事などを取り入れながら、隣人との集まりを楽しむことが大切でしょう。


              節分にあわせた「隣人祭り」合同厄除け祝い


なお、わたしは、「隣人祭りのススメ」というブックレットを「佐久間庸和」の本名で書きました。「隣人祭り」を開催するためのマニュアルとして実際に使える内容です。
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                  さあ、「隣人祭り」を開催しよう!



2010年4月7日 一条真也