「クロッシング」

一条真也です。

東京に来ています。
いろいろな打ち合わせをしました。
葬式は必要!』に続く『先祖とくらす』の打ち合わせ。
ドラッカーに関する新企画の打ち合わせ。
それから、総合ユニコムの関係者とお会いして、「月刊フューネラルビジネス」への新連載が決定しました。
あわせて、7月にパシフィコ横浜で開催される「フューネラルビジネスフェア」のセミナーに登壇することも決まりました。
新刊『葬式は必要!』の内容とあわせて、儀式産業への想いを語ろうと思います。
夜は、渋谷の「ユーロスペース」で映画「クロッシング」を観ました。


生きるために北朝鮮から中国に渡った親子の悲劇を描いた作品です。
100人近い脱北者への取材を基に、「オオカミの誘惑」や「百万長者の初恋」で知られるキム・テギュンが、監督しています。
第81回アカデミー賞外国語映画部門賞の韓国代表作品に選ばれました。
この映画は、とにかく北朝鮮の現実を描いていることで高い評価を得ています。
その過酷さは目を覆いたくなるほどです。
なにしろ、食料不足により1996年以降だけで300万以上の人々が餓死したのです。
中国やモンゴルでの撮影により、脱北経路もリアルに描かれています。



何よりも印象深かったのは、この映画において「雨」と「弔い」が重要な役割を果たしていることでした。
「人の道」を求めて儒教を開いた孔子は、母親の影響を強く受けましたが、その母は雨乞いと葬送を司るシャーマンでした。
葬式は必要!』にも書きましたが、雨も葬式も人間が生きていくうえで必要不可欠なものです。そのことを、この映画で再確認しました。
さらには、11歳の一人息子ジュニが父をひたすら慕う姿が感動的です。
パンフレットで、映画評論家の佐藤忠男氏は次のように書いています。
北朝鮮は」社会主義国だが、土台には儒教倫理の伝統が確固として生きている。父を信じ、父に命じられた『男の子はお母さんを守れ』という言葉を自分の生きるよりどころとするジュニの心は韓国人には誰よりも痛切に響くものであるはずだし、プロパガンダよりもそうした伝統的な倫理をこそ作品の柱としたことで、この作品は世界に強く訴える精神性を持つことができたと思う。」
そう、この映画は儒教映画なのです!
そして、親子の愛、夫婦の愛、つまりは家族の絆を見事に描いているのです。



最後に、こんな素晴らしい映画が上映館の少なさゆえに、観賞できる日本人が限られているのは残念なことです。
わたしも東京に出張していなければ、この作品を観れませんでした。
こういった社会派の名作がもっと地方でも観れるようになればよいと思います。


2010年4月27日 一条真也