前期最終講義&試験

一条真也です。

金沢に来ています。
わたしは、北陸大学未来創造学部で「孔子研究」を教えています。
今日は、前期最後の授業を行いました。
テーマは「孔子の後継者たち」です。


                  前期最後の試験を行いました


まず、孟子荀子朱子王陽明といった中国における儒教の超大物4人について取り上げました。孟子の「性善説」や「王道政治」、「浩然の気」、荀子の「性悪説」、朱子の「理気説」「性即理」、王陽明の「心即理」、「知行合一」、「致良知」などの儒教における重要思想についても説明しました。
ものすごく大切なことを、魂を込めて教えました。


                ものすごく大切なことを教えました


その後、日本の儒者朱子学陽明学に分けて紹介。
朱子学者としては、藤原惺窩、林羅山貝原益軒新井白石
陽明学者としては、中江藤樹、熊沢蕃山、山鹿素行伊藤仁斎荻生徂徠
以上のようなビッグネームを紹介しました。
余談として、安岡正篤三島由紀夫陽明学との関係についても話したところ、学生たちも興味深い顔をして聴いていました。


               学生たちも真剣に聴いてくれました


とにかく、今日の講義はこれまでの客員教授人生(といっても2年半ですが)の中でも、最高の講義でした。
なにしろ、まったく私語がありませんでした。
300名もの学生が一言も私語を発しないので異様な集中力が生まれました。
その結果、この上なく充実した講義となったのです。
それもそのはず、講義の直後には試験を行ったのです。
真剣に講義を聴き、ノートを取らないと答案が書けない記述式の試験を行いました。
試験は自筆のノートのみ持込可で、コピーは一切持ち込みを認めていません。
また、電子辞書の持ち込みを禁止しました。
約140名の中国人留学生には酷だったかもしれません。
しかし、留学生のほとんどは見事な日本語で答案を書いていました。
それを見ていると、感動が湧いてきました。
彼らは、まだ1年生です。ほんの数ヶ月前に中国から日本にやって来て、一生懸命に日本語をおぼえ、日本人であるわたしから孔子の思想を学んでいる。
これが逆だとして、中国に留学した日本人の1年生が中国語で試験の答案が書けるかといったら、まず書けないでしょう。
改めて、中国人の頭の良さを痛感しました。彼らの頭脳と勤勉さがあれば、中国は必ずや世界の超大国としてアメリカと張り合うことができるでしょう。
さて、中国人と試験といえば、かつて「科挙」というものがありました。
科挙は、中国で行われていた公務員採用資格試験ですが、唐代・宋代でほぼ完成しました。清代に廃止されるまで、1000年以上も行われました。
宋代以降に文治主義が確立した中華帝国にあって、科挙こそが立身出世の第一の道であり、現代の受験など遠く及ばない重みを持っていました。
膨大な知識を記憶して、それを完璧に答案として書くことが求められたのです。
そして、その主題内容は、ずばり儒教に関する問題でした。
正しくは、『大学』『中庸』『論語』『孟子』の四書が中心だったのです。
今日の試験では、まさに四書の内容が出題されました。
つまり、日本の金沢で伝説の「科挙」試験が再現されたようなものです。
真剣な形相で答案用紙に向かい、一心不乱にペンを走らせる学生たちの後姿を見て、わたしの胸は熱くなりました。
この300人は、みんな、わたしの教え子です。
そこには日本人も中国人もありません。
そう、「人の道」に国境はないのです!


               時空を超えて「科挙」がよみがえる!


なにしろ学生の数が多いので、試験監督も7名ほど出動しました。
わたしも、試験中は学生たちの間を静かに歩き回ります。
でも、これがなかなか気疲れするのです。
先日、杉原厚吉著『大学教授という仕事』(水曜社)という本を読みました。
7月6日のブログでも紹介した本ですが、そこに次のような記述がありました。
「試験監督の最大の任務は、試験の公正を期すことである。これには、カンニングなどの不正を見つけて摘発することも含まれるが、もっと大切なのは、不正をしようという気が生じないように、試験会場の厳粛な雰囲気を保つことである。そのためには、試験の時間中、会場を巡回して、カンニングなどできない環境を保つことが大切である。巡回はするが、受験生の邪魔をしないように静粛さは保たなければならないから、おのずと、抜き足差し足となる。試験監督が会場を巡回するときの足音がうるさくて気が散ったと、あとから受験生の親からクレームがつくことなどもあるらしい。音を立てないように気を使いながら、長時間歩き回るこの作業はかなりの重労働である」
今日の試験は入試ではないので、さすがに親からのクレームはありませんが、真剣に試験問題に取り組んでいる学生たちの姿を見ていると、こちらまでピリピリ緊張します。
もちろん、今日はカンニングなどする学生は一人もいませんでした。
試験終了後に回収された膨大な答案用紙には、「礼」とか「王道」とか「知行合一」といった文字がたくさん踊っていました。


2010年7月14日 一条真也