雪の科学館

一条真也です。

今日の金沢は非常に寒く、初雪が降りました。
マリエールオークパイン金沢バンケット改装の打ち合わせをした後は、紫雲閣の建設用地の視察に石川県内を回りました。ちょうど片山津温泉の近くを訪れたので、ずっと訪問したかった「中谷宇吉郎 雪の科学館」に行きました。


                    いざ、「雪の科学館」へ

                    磯崎新が設計した建物

                   まるで雪の結晶のような館内


中谷宇吉郎は、日本を代表する「雪博士」として知られた人です。
実験物理学者として活躍しましたが、天然雪の研究から出発し、やがて世界に先駆けて人工雪の実験に成功した人です。
彼は、雪の結晶の美しさに感動し、雪の研究に人生を捧げました。
北海道の十勝岳で」3000枚もの雪の結晶の写真を撮影し、1936年には北海道大学に設けた低温室で、世界で初めて人工的に雪の結晶を作り出すことに成功しました。


                  中谷宇吉郎の写真とともに


師匠の寺田寅彦と同じく、随筆の名手としても知られ、その著『雪』は岩波新書の第1回配本の中の1冊でした。今は岩波文庫に収められている永遠の名著です。松岡正剛さんのウェブ書評「松岡正剛の千夜千冊」に取り上げられた第1冊目でもあります。
その『雪』の中には、「雪の結晶は、天から送られた手紙である」という有名な一節が出てきます。なんと、ロマンティックな言葉でしょうか!
天からの手紙を読み続けた中谷宇吉郎
故郷の加賀市に開設されたのが、「中谷宇吉郎 雪の科学館」です。
「雪の結晶」をモチーフにした建物は、かの磯崎新氏によるものです。
館内には中谷博士の人柄や研究の成果を展示や映像はもちろん、実験・観察の体験も交えてわかりやすく説明してくれます。


                中谷博士の人柄もよくわかりました


金沢に初雪が降った日に、「雪の科学館」を初訪問したのは、まことに奇遇でした。
冬といえば、雪です。日本の自然のシンボルは「雪月花」ですが、その中でも雪は季節の移り変わりを表わします。  四季にめぐまれた日本において、だいたい日本人には季節の共通感覚がありますが、冬の理解だけは違うようです。
元旦から冬を輝かしい「新春」として受けとめる太平洋に面した地帯と、雪に降りこめられる山間、日本海沿岸地帯とは明暗の区別がはっきりしているのです。


                  雪は天からの手紙です


雪が降る地方に住んでいる人は生きる上でも知恵があるように思います。
作家の五木寛之氏は、福岡県生まれですが、若い頃に金沢に住んでいました。
五木氏は、北陸名物の雪吊りに興味を抱きました。
兼六園が夜中でも自由に通行できた頃、雪の深夜に園内を歩いていると、あちこちから「ビシッ」とか「パキーン」という鋭い音が聞こえてきて、五木氏はハッとしたそうです。
最近は積雪量こそ少なくなりましたが、人および木々にとって厳しい冬をしのぐには、まだまだ工夫が必要です。雪の少ない地域や軽い雪が降る地域に見られる雪吊りは装飾的な要素が大きいでしょう。しかし、北陸に降る雪は重く、金沢の雪吊りは木々を守るために欠かせない冬に欠かせない知恵なのです。
そして、重要なことは、柔らかくしなる枝は雪に折れず、むしろ強い枝の方が雪の重みで折れることが多いことです。弱い枝の方が折れずに、生き延びる。
五木氏は、金沢の雪吊りから人間の生き方を連想したといいます。


              2008年12月2日付「北國新聞」より


金沢といえば、わたしは金沢の雪ほど美しいものはないと思います。
金沢の雪は滞空時間が長く、まるで雪のかけらが空中でダンスを舞っているようです。
わたしは金沢市にある北陸大学の客員教授を務めていますが、広大なキャンパスに積もる雪はまるで巨大な白いシーツのようで、まことに幻想的な光景です。
そのことを金沢に本社のある「北國新聞」のインタビューで話したことがあります。
わたしは「金沢の雪が好き?」と質問され、「滞空時間が長いところが何とも言えない。ひらひら舞う姿は人生のはかなさを思わせます」と答えています。
今年は、金沢の初雪を見れて、本当に幸せです。


2010年12月9日 一条真也