茂木健一郎講演会

一条真也です。

脳科学者・茂木健一郎さんの講演を聴きました。
題は「脳を磨け!」で、北陸大学の入学式の特別講演会として開催されたのです。
茂木さんの話を聴くのは初めてですが、とても聴かせる講演でした。
わたしは、思わず「うーん、うまいなあ!」と唸ってしまいました。


                    600人以上が聴きました


もともと、わたしは茂木さんが本を書き始めた頃から彼の「クオリア」仮説には注目していました。『ハートフル・ソサエティ』(三五館)でも、「脳から生まれる心」という一章を割いて、クオリアを中心に脳と心の関連性を述べました。
わたしたちはみな、朝、目覚めると、それまで存在しなかった「わたし」の意識が突然あらわれます。そして、夜になり再び眠りに陥るまで、わたしたちの意識のなかにはさまざまなイメージや感覚が出てきます。
コーヒーの香り、トーストの香ばしさ、朝の空気のすがすがしさ、太陽のまぶしさ、午後のけだるさ、夕暮れどきの物悲しさ、そしてビールの最初の一杯の爽快さ・・・・・・これらの主観的体験に満ちた意識は、一体どのようにして生じるのか。
脳科学者としての茂木健一郎氏は、この問題こそ、わたしたち人類に残された最大の謎であるとし、それを解くキーワードとして「クオリア」をあげたのです。



クオリア」はもともと「質」や「状態」を表すラテン語で、アウグスティヌスの『神の国』にも出ている古い言葉です。それが近年になって、特に心脳問題において、わたしたちの主観的体験のなかに感じられるさまざまな「質感」を指すようになりました。
わたしたちが知覚するこの世界は、クオリアに満ちています。草の緑色。バラの赤。風のさわやかさ。水の冷たさ。鳥のさえずり。そして、それらを体験する私自身の体の感覚。「わたし」がここにいて、世界を感じているという意識。
目覚めている限り、わたしたちの心のなかには、クオリアがあふれているのです。
「わたし」とは、「わたし」の心のなかに生まれては消えるクオリアのかたまり塊のことであると言ってもいいくらいです。しかし、物質である脳のなかのニューロンの活動からクオリアがどのようにして生まれるのかという問題は難問中の難問とされ、「意識とは何か」という問いに答えるうえでの最大の鍵であると言われています。そして、脳内で起こる物理的、化学的過程はすべて数量化できますが、クオリアは数量化できません。



人間がその生活のなかで感じることのある質感のカタログをもしつくったとしたら、人々はその膨大なことに驚くに違いありません。
「実際、そのようなカタログは人間に関する最良の文学作品になるだろう」と茂木氏は著書『脳とクオリア』で述べています。
たとえば、プルーストは『失われた時代を求めて』のなかで、紅茶に浸したマドレーヌの味から、昔の記憶を呼び起こしました。
たとえば、開高健の小説は、食と性に関する質感のコレクションと言えるでしょう。
人間が出会う質感のカタログは、人間そのもの。
人間は、質感が有機的に統合された存在なのです。
心のなかのクオリアを表現する行為こそ芸術の本質とも言えますが、さまざまなクオリアを見事に表現した画家にクロード・モネがいます。
モネの初期の絵を見ると、例えば夏の日のポプラの緑、そこに当たる光の白い反射と輝き、周囲の草原、その中を歩く人などが、それらとともに風の涼しさ、草の匂い、肌に伝わる汗の感触などがそのまま伝わってくるかのように生き生きと描かれているのです。
いわば「この世界に“いま”生きていることの喜び」とでもいうべきことが、ストレートに表現されて見る者の心に生への希望を与えるのです。



以上のように、「クオリア」仮説を非常に新鮮に感じたわたしは、それ以来、茂木健一郎という気鋭の脳科学者に注目してきたのでした。ここ数年はテレビにもよく出演されて、あまりにも有名になりましたが、今日の講演はなかなか興味深かったです。
何よりも、茂木さんが非常にクレバーな人であるということがよくわかりました。
主催者が何を話してほしいのか、聴衆(今日の場合は新入生)が何を聴きたがっているか、その核心を理解しています。わたしも講演をする機会が多いので、茂木さんの話の持って行き方、進め方は大いに勉強になりました。


                    大変な講演上手でした


まず最初に、茂木さんは新入生たちに向って「おめでとう! みなさん、北陸大学に入ったとは素晴らしい!」と言いました。なぜ素晴らしいかというと、北陸大には日本人だけでなく、中国人も韓国人もタイ人もインド人もいるからだそうです。
日本人だけの大学ではダメで、いろんな国の人たちがいることが良いというのです。
それから、北陸大が金沢という地方都市にあることも良いことだといいます。
もはや、東京などの大都市の時代ではない。現在は、インターネットがあるので、環境に恵まれた地方都市で学ぶのが良いそうです。


                  リスクのないチャレンジはない!
                  

そして、「みんな、よくこの時期に日本に来た。正しいリスク評価ができている」と言いました。もともと生きていること自体がリスクなのであって、リスクのないチャレンジはないというのです。フェイスブック創始者であるマーク・ザッカーバーグも、あらゆるリスクを冒して大きな成功を勝ち得たのだとか。
「リスクはあっても、一方で大きな利益があがる。その意味で、今日ここにいる中国や韓国の人たちは正しいリスク評価ができている」というのです。
茂木さんいわく、大学選びもリスクなら、恋人選びもリスクだらけ。ましてや結婚相手を選ぶなど、人生最大のリスクである。
「リスクのない確実なことって、面白くないんだよ。人間、すべてわかっていることにはワクワクしない」「惹かれる異性には、わからない要素が必ずある。わからないから惹かれるというのは、脳科学的にも実証済み。自分と同じような人間には絶対に惹かれないものなんだ」と言いながら、客席前方を向いて、「今日はサンデルみたいな授業をしようかな」と言った後、「いやいや、何でもない。独り言です」とつぶやくのです。



そこからは、明治製菓の「きのこの山」と「たけのこの里」はどちらもチョコとビスケットからできていて同じ成分なのに、なぜ「きのこの山」派と「たけのこの里」派ができるのかとか、「嵐」や「AKB48」にはいろんなメンバーがいるのに、なぜ特定の1人のファンになるのかなどを説明します。聴くほうは、もう興味シンシン。
それも、「先日、嵐の大野クンと一緒に仕事したんだけど」とか「AKB48のプロデューサーの秋元康さんと仲良しなんだけど」などと言うものですから、そりゃー、新入生たちも熱心に聴き入ってしまいますよね(笑)。
たしかに講演上手なことは認めますが、茂木さん、ちょっとズルイかも(苦笑)。


                  ドーパミンの話が面白かったです


特に印象深かったのは、ワクワクしたときに脳が分泌するというドーパミンの話です。
台風が来るとき、それが大きい台風であればあるほど、人間はワクワクするそうです。
今は不謹慎かもしれませんが、地震津波だって大きいほうがワクワクするのです。
そのとき脳がドーパミンを出すわけですが、そのほうが生き残る確率が高くなるとか。
そして、新入生たちに「みんな、何かワクワクするから北陸大学に来たんだろ」と問いかけ、「だって半分が日本人で、半分が外国人、こんな何が起こるかわからない大学ないぜ!」というのです。いやあ、たしかに!
しかも、中国人や韓国人を相手に日本人であるわたしが『論語』を教えたりするわけですから、本当に何が起こるかわかりませんね(笑)。
それから、ケータイというのは「史上最大のドーパミン発生装置」なのだそうです。
なぜなら、メールがいつ来るか、みんなワクワクするからです。
そして、ワクワクすればするほど生きる力がつくというわけです。



さらに、大学に行くことの目的は「他人のために役に立つことを学ぶため」と述べました。
自分のために頑張る人は1人分のエネルギーしか出せないが、みんなのために頑張る人は大人数分のエネルギーを出すことができるというのです。
そして、膨大なエネルギーを出した人として、ソフトバンク孫正義社長の名をあげていました。iPhoneなどを普及させ、多くの人々を幸せにしてきたからだそうです。
孫社長といえば、昨日、被災者に100億円の個人資産を寄付することが明らかになりました。茂木さんはそれを称賛しながらも、「あの人の資産は数千億円ですよ」と言った後、「そこから導き出せる真理とは何か。いくら数千億円持っていても、良い毛生え薬は手に入らないということです」と、会場を爆笑させました。
いやあ、本当に芸人さん並みのトーク術ですねぇ(笑)。



というわけで、1時間にわたる茂木さんの講演のポイントは3つ。
1.根拠のない自信を持て。2.そのための努力をしろ。3.リスクをおそれるな。
とても楽しくて、いろんなことを学ぶことができました。
茂木さん、今日は、ありがとうございました。
また、「クオリア」のようにワクワクさせてくれる新説にも期待しています。


2011年4月5日 一条真也



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