激安を考える

一条真也です。

金沢に来ています。
北陸大学の授業を終えたわたしは、しばし雨の金沢を散策しました。
今夜は、金沢の知人たちが誕生日祝いの食事会を開いてくれることになっていました。
「何が食べたいですか?」と聞かれ、わたしは「焼肉かなあ?」と答えました。
そして、どうせなら、話題の「焼肉酒屋えびす」に行ってみたいと思いました。


その理由は、けっして野次馬的な興味からではありません。
サービス業に携わる1人の経営者として、「焼肉酒屋えびす」には色々と関心があったのです。それというのも、あの死者を出したユッケ集団食中毒事件の記者会見における同社の勘坂康弘社長の様子を見たからです。
最初の会見は、最後に「申し訳ございませんでした!」と大声で謝罪し、それで会見を切り上げました。「逆ギレ会見」などと言われましたが、あくまでも謝罪した上で「加熱用の肉を生で出すのは当然」「それがダメというのなら、きちんと法律で制限して欲しい」という主張には一応の筋は通っていました。ただ、言い方には問題がありましたね。
せっかくメッセージは間違っていなかったのに、最後が残念でした。
あれでは、捨て台詞を言い放ったように見えてしまいます。
また、世間には「生肉を食べるのは自己責任」という見方もあります。
現行の食品衛生法では、牛豚馬の生肉を食べる事は規制していませんから。
それにしても、なんと、280円のユッケとは!



「焼肉酒家えびす」は、食中毒事件を起こす2日前、日本テレビ系の「人生が変わる1分間の深イイ話」で大きく取り上げられていました。
ちなみに、わたしは、この番組を観たことがありません。
島田紳介氏が司会を務める情報バラエティ番組だそうです。この番組で紳介氏は「焼肉酒家えびす」を絶賛し、出演者全員が絶賛して「深イイ話」と認めたとか。
この番組を観て、同店に出掛け、くだんのユッケを注文した人も多いことでしょう。
これは、「焼肉酒家えびす」チェーンを経営するフーズ・フォーラス社が某大手広告代理店に依頼した宣伝番組だったとされています。現在、この番組に対して社会的責任を問う声もあるようですが、まあ民放の情報番組など、どこも同じようなものでしょう。
特に、深刻な「広告不況」が叫ばれる昨今ですから、代理店もテレビ局も必死です。


                  焼肉酒家えびす金沢増泉店


民放の情報番組といえば、先日、日本経済新聞社の方々と飲んだのですが、同社のグループ企業である民放の経済情報番組について意見を述べたことを思い出しました。
その番組は、かつて流行作家として有名だった人物がホストを務めているのですが、彼は「経済通を気取るわりには実は経済オンチ」としてよく知られています。
その番組には、いわゆる各業界で「価格破壊」を実現している企業の経営者がよく登場します。どうも、その作家氏は「安く売る経営者こそ、優秀な経営者」だと信じているようなのです。しかし、登場するのは怪しげなベンチャー企業が多く、はっきり言って10年後に残っている会社がいくつあるか疑問です。
それは、ベンチャービジネス専門誌などにも言えることですが・・・・・。
とにかく、そろそろ価格破壊=イノベーションという単純な発想は止めてほしいものです。
ちなみに、くだんの番組に取り上げられた「価格破壊」が売り物の某葬儀社は、現在、根拠なき誹謗中傷をしたとして、複数の互助会から訴えられています。


                   店は閉まっていました 


いずれにせよ、「安ければ良い会社」というのは、絶対におかしいと思います。
「安い会社は、消費者思い」というのも明らかな勘違いです。
その勘違いがデフレ経済を進行させ、大規模な不況を呼び込みました。
また、消費者のほうも、ひたすら「安さ」を追求してきたことも反省すべきでしょう。
実際、「激安」の店さえ紹介すれば、テレビも視聴率を稼いできました。
昨日お会いした伊藤忠商事執行役員の方は、「今回のユッケ食中毒事件は、デフレ経済のなれの果て」と言われていましたが、わたしもそう思います。
でも、サンレー北陸の若い社員に感想を求めたところ、何人かから「えびすは安くて美味しいですよ」という声が帰ってきました。そこで、わたしも「物を言うなら、まずは体験すべし」と思って、同店の金沢増泉店に行ってみましたが、閉まっていました。
ドアには、「全店営業停止のお知らせ」の貼紙がありました。


                  フーズ・フォーラス本社前で 


わたしは、フーズ・フォーラスの勘坂社長に会ってみたいと思いました。
逆ギレ会見の直後に土下座会見したり、ブレまくる広報戦略について進言したいこともありましたし、このままでは再開が困難な同チェーン店に対して起死回生のアイデアを思いついたので、それをぜひ伝えようと思ったのです。
そこで、わが社の「古府紫雲閣」のすぐ近く、金沢市入江にあるフーズ・フォーラス本社を訪問しました。しかし、扉は固く閉められ、まったく中とは連絡がつきませんでした。
サンレー北陸の高市修部長が勘坂社長の大学の先輩ということなので、高市部長にアポを取ってもらえば良かったかもしれません。その後、また「焼肉酒家えびす」金沢増泉店に戻って、大きな看板を見上げながら、いろいろと考えました。
デフレの蟻地獄に陥った日本経済の行方にも思いを馳せました。
ちなみに今夜の食事会ですが、ほどほどにリーズナブルなお店に行きました。


                   激安について考えました 
              

2011年5月12日 一条真也