厳しき「ブッダ」評

一条真也です。金沢にいます。
ムーンサルトレター」の第71信がUPしました。Tonyこと鎌田東二先生がレターの冒頭で、足のギプスが取れたばかりのわたしに次のような言葉を下さいました。
「絶対に無理をしすぎないように。事後のコントロールが最も大事ですので。わたしも3度の骨折経験があるので、くれぐれもこの点、ご注意願います。特に足の骨折は慎重にリハビリしてくださいね。これから先の長い人生にひびいてきますので」
義兄弟の心ある言葉・・・・・本当に、ありがたいです。


                 「ムーンサルトレター」第71信より


レターによると、鎌田先生は先週末、福島県相馬市で行われた「東日本大復興祈願並び犠牲者慰霊大採燈祭」に参加され、また東京大学仏教青年会が開催した「宗教者災害支援連絡会・第3回情報連絡会」にも参加されたそうです。
「どちらも、心に深く染み込む得難い機会と場となりました」と書かれていました。
それから、わたしがチケットをお送りした映画「手塚治虫ブッダ〜赤い砂漠よ、永遠に」を観ていただいたそうです。その感想は以下のようなものでした。
「残念ながら、映画としては失望しました。宮崎吾郎監督の『ゲド戦記』を観た時の失望とも似ていました。わたしは、ファンタジー文学の中では、『ゲド戦記』が一番好きですし、名作だと思っているので、あのアニメには頭に来ました。そして、ブッダを深く尊敬しているわたしには、このアニメは物足りませんでした。いろいろな意味で、中途半端だと思いました。Shinさんたちが応援しているのに、申し訳なく思いますが、でも、それが正直な感想ですから致し方ありません。ウソはつけないので、そのまま言ってしまいます」



なかなか手厳しい意見ですが、正直に言っていただいて嬉しいです。
ブログ「手塚治虫のブッダ」に書いたように、わたしは冠婚葬祭互助会業界団体の広報委員長として、この映画を応援しています。
ブログ「映画『ブッダ』の感想」へのアクセスも非常に多いです。
検索サイトでも上位にランクされ、「映画 ブッダ 感想」とか「映画 ブッダ レビュー」などの検索ワードから、毎日ブログへとかなりのアクセスが来ています。
宮崎アニメをはじめ、アニメーション論の第一人者でもある鎌田先生の感想を非常に楽しみにしていたのですが、残念ながら満足していただけませんでした。
鎌田先生は、レターで次のようにも書かれています。
「宗教家や魔術師を映像にするのは、なかなか難しいとも思いました。わたしは、昔から宗教や魔術に関心を持ってきたので、それを伝えるワザが難しいこともよくよく感じてきました。しかし、それを踏まえて、今この時代にこそ、宗教や魔術のワザについて、ふかく透明な認識と表現が必要だと感ぜずにはいられません。そんな探究に、これからも微力を尽くしたいと思っています」



もう1人、映画の感想を聞きたい方がいました。「サロンの達人」こと佐藤修さんです。
手塚治虫の原作の大ファンという佐藤さんは、歯の手術で入院しておられました。
退院直後にもかかわらず、映画館に行って下さいました。
佐藤さんは、「原作を読んでいただけに、どの部分を取り上げて、どういう構成にするのか興味がありました。大作ですから、思い切った発想の転換で、別の構想にしないと映画化は難しいのではないかと思っていました。感想は、いささか厳しいものにならざるを得ませんでした」とのメールを下さいました。
佐藤さんが最も違和感を感じたのは、シッダルタの声だそうです。
あまりにも無表情な声で、気になったというのです。
また、佐藤さんは次のようにも書かれています。
「原作にあまりに忠実に沿ってたのも、ちょっと意外でした。原作を読んでいる人にはわかったと思いますが、読んでいないとわかりにくとも思いました。ほとんどの人が原作を読んでいるでしょうが、子どもたちは必ずしも読んでいないかもしれません。友人から子どもを連れていったが、子ども向きではなかったとも聞いていましたが、やはりちょっと子ども向きではなかったような気がします」


                   佐藤修さんのブログより


また佐藤さんは、自身のブログにも「ブッダ」のことを書かれました。
6月22日の「生きることは喜びに満ちている」という記事です。
佐藤さんによれば、映画のナレーションで気になる言葉があったそうです。
「生きることは苦しみに満ちている」という言葉です。
これはこの作品のメッセージでもあります。
ブッダは「生老病死」を苦悩と見なして、「四苦」と唱えました。
佐藤さんは、この言葉が奇妙にひっかかったそうです。
「生きることが苦しいはずはない」
自分のどこかで、そう叫んでいる気がしたというのです。
佐藤さんは、ブログに次のように書かれています。
「たしかに、生きることには悲しみも寂しさも辛さも、そして苦しみも満ちている。でもそれらはすべて、喜びのためにあるのではないか。『生きることは苦しみに満ちている』という言葉の呪縛にはまってはいけない。もし言葉にするのであれば、『生きることは喜びに満ちている』と言うべきです。最近、そういう思いが強くなってきています。そのせいか、映画の中で語られるこの言葉に、大きな違和感を持ってしまったのです」
この佐藤さんの意見には、わたしも大いに共感しました。
もともと、わたしは仏教の教えの中で「四苦」だけは納得していないのです。
ハートビジネス宣言』(東急エージェンシー)という著書に「生老病死のポジティブシフト」という文章を書き、「四苦」から「四楽」への発想転換を訴えたくらいなのです。
その考えは、その後、『ハートフル・ソサエティ』(三五館)の「デザインされる生老病死」にも受け継がれています。



鎌田先生も佐藤さんも、わたしが映画を応援していることをよく御存知なので、気配りもあってか何だか言いにくそうでしたが、しっかりと厳しい感想を述べて下さいました。
いずれも非常に参考になる意見であり、ぜひ製作者サイドに伝えたいと思います。
なにしろ、この映画は3部作の第1作であり、この後も2作あるわけですから・・・・・。
わたし自身の感想は、ブログ「手塚治虫のブッダ」に書きました。
それにしても、映画作りというのは難しいものですね。
ブッダのような偉大な宗教家の生涯をアニメ化するのは難しいです。
また、手塚治虫の原作をアニメ化することも難しいです。
まあ、最初から「難しい」ことは承知でスタートした企画です。
あと2回チャンスがありますので、なんとか貴重な感想やアドバイスを謙虚に受け入れて、さらに良い映画が作られることを願っています。


2011年6月23日 一条真也