イノベーションとは

一条真也です。

小倉から京都を経て、金沢に来ました。
金沢に着くと、雪がかなり降っていました。
いったんホテルにチェックインしてから、太陽ヶ丘の北陸大学に向かいました。


イノベーションの講義について講義しました



北陸大学で、「ドラッカー研究」の後期最後となる講義をしました。
第1回目は「ドラッカーとは何者か」と題して、ピーター・ドラッカーの生涯と思想を振り返りました。第2回は「マネジメントとは」、第3回は「マーケティングとは」でした。第4回目となる今日は、「イノベーションとは」がテーマです。
また、これから本業が多忙になるため、特別講義は今年でいったん終了にしました。
リベラルアーツ」の授業も4年でワンクールなので、タイミングも良いのです。
ということで、ドーデーの名作ではありませんが、今日は「最後の授業」となりました。
200名近い学生たちが大教室を埋め尽くしました。


200名近い学生たちが集まりました



ドラッカーは、企業の2つの基本的機能として、マーケティングイノベーションを定めました。また、「顧客の創造」としてのマーケティングと「価値の創造」としてのイノベーションを、マネジメントに不可欠の2つの要素と位置づけてもいます。
ヨゼフ・シュンペーターという偉大な経済学者がいます。彼は、ウィーン大学ドラッカーの父親から経済学を学びました。
ドラッカーシュンペーターが亡くなる1週間前にも会っています。
シュンペーターは何よりも「イノベーション」という考え方を重視しました。
資源を陳腐化した古いものから新しい生産性の高いものへと移すイノベーションこそ、経済の本質であると主張し、その基盤となる「起業家精神」の存在を重視しました。
起業家の行なう不断のイノベーションが経済を変動させるというのです。


イノベーションについて語りました



イノベーション」は、シュンペーターの名著『経済発展の理論』で初めて示されたコンセプトです。同時に彼は、古典派経済学にもマルクスにもケインズにもできなかったことを示しました。すなわち、「利益」というものに初めて経済的な機能を与えたのです。
マルクスにとっての「利益」は資本家が労働者から搾取した剰余価値にすぎませんでしたが、シュンペーターは、雇用と所得の唯一の源泉として「利益」をとらえたのです。
イノベーションを実行する者、すなわちイノベーターだけが真の利益を生み出す。
そのように、シュンペーターは主張しました。
しかし、その利益は常に短命であるとも言っています。よって、常に絶え間なくイノベーションを続けていかなければ利益を生み出すことはできないのです。



シュンペーターは、「イノベーションとは創造的破壊である」という名言を残しています。
イノベーションは過去を破壊します。ですから、昨日の資本設備と資本投資を陳腐化させます。したがって、経済が発展するほど資本形成が必要になってくるのです。
古典派経済学、あるいは会計士や株式市場が利益としているものは、真のコストとされます。つまり、企業存続のコストです。
いま好調な事業の利益を当てにするという、いわば未来のためのコストです。
したがって、本当に利益をあげて富を増やし、今日の雇用の維持と明日の雇用の創出のためには、資本形成と生産性向上が不可欠になってきます。
シュンペーターの言う「創造的破壊」を行なうイノベーターだけが、「利益」の存在を説明できる唯一の根拠です。
シュンペーターの見方をとれば、古典派経済学およびケインズを悩ませた利益の不道徳性という問題は消え、利益は道徳的必然となります。
すなわち、「利益」というものをまったく正しい存在とするもの、それが「創造的破壊」という真のイノベーションなのです。



シュンペーターの経済学では、利益は十分にあるかというが常に問題となります。
利益とは何か。それは、未来のコストであり、企業存続のコストであり、かつ新たな創造的破壊のためのコストなのです。結局シュンペーターは、制度やシステムではなく、経済活動の中心に人間を置いたのです。
それは従来の経済学から見れば、まったくの異端でした。そして、このシュンペーターの「人間中心」の立場を引き継いだ人物こそがドラッカーでした。ドラッカーも人間を中心に経済を読み解き、ついには人間学としてのマネジメントを発明しました。
ドラッカーが、イノベーションを重視したことは当然であり、「イノベーションとは、顧客にとっての価値と満足の創造に他ならない」と定義しています。



ドラッカーいわく、本物のイノベーションであるかどうか。それは、価値を創造しているかによって判定されます。イノベーションとは、顧客にとっての価値の創造なのです。
ドラッカーは「新奇さは面白いだけである」と述べています。
ところが組織の多くが、新奇なものに取り組んでいます。
毎日同じことを行ない、同じものをつくるのに飽きたためです。そのことをドラッカーは嘆いています。しかし、イノベーションであるか否かは生産者が決めるのではありません。
それを顧客が求め、その代金を支払うことによって初めて決まるのです。
学生たちも、その話を聞いて、よく理解してくれたようでした。


ドラッカー研究」の試験を行いました



イノベーションについて講義をした後は、後期の試験を行いました。
真剣に講義を聴き、ノートを取らないと答案が書けない記述式の試験を行いました。
試験は自筆のノートのみ持込可で、コピーは一切持ち込みを認めていません。
また、電子辞書の持ち込みを禁止しました。
約140名の中国人留学生には酷だったかもしれません。
しかし、留学生のほとんどは見事な日本語で答案を書いていました。


最後の授業を終えた北陸大学で



日本人も中国人も、わたしの講義で知ったドラッカーの考え方から何かを感じ、それを実際のビジネス人生で活かしてくれれば、こんなに嬉しいことはありません。
今日で「最後の授業」そして「最後の試験」となりましたが、これからも講演その他で北陸大学に来ることはあるでしょう。みんな、わたしの可愛い教え子たちです。
どうか、みんな、元気で! また、いつか会いましょう!


2012年1月11日 一条真也