丹羽大使からの手紙

一条真也です。

中国から1通のエアメールが届きました。
見ると、差出人が「日本国駐華大使館」となっています。
開封すると、なんと丹羽宇一郎大使からの直筆のお手紙でした。


中国から届いたエアメール



丹羽宇一郎氏は、伊藤忠商事の会長・社長、国連世界食糧計画WFP協会の会長などを歴任され、2010年6月に中華人民共和国駐箚特命全権大使に就任されました。
ブログ「丹羽宇一郎氏」にも書きましたが、わたしが心から尊敬申し上げている方です。
また、ブログ『新・ニッポン開国論』ブログ『負けてたまるか!若者のための仕事論』で紹介した本をはじめ、数多くの名著を書いておられます。



先日、かねてから『論語』を愛読されているという丹羽大使に『『礼を求めて』(三五館)および『世界一わかりやすい「論語」の授業』(PHP文庫)の2冊をお送りしました。
すると、わざわざ中国から丁重な直筆の礼状を頂戴した次第です。
丹羽大使は、手紙の冒頭で「小生を育ててくれた孔子についての数々の著作に敬意を表しております」と述べられ、さらに次のように書いて下さいました。
「もうとっくに亡くなりました『オバアチャン』や『オフクロ』から物心つく頃から耳にしていた数々の言葉に軸を通し、小生の価値観を育てあげる力となった孔子なくして今の小生はありえない思いを強くしているこの頃です」
そして、最後に「お送りいただいた2冊の本も早速読ませていただき、書棚に加えました」と書いて下さいました。尊敬する丹羽大使からのお言葉に、わたしが感激したことは言うまでもありません。「礼」というものを強く感じました。


丹羽大使の著書は、わが愛読書です



現在、尖閣諸島の問題などで中国と日本との関係は難しい状況にあります。
でも、わたしは丹羽大使ほど中国大使にふさわしい日本人はいないと思っています。
中国は一筋縄ではいかない国です。一クセも、二クセも、三クセもある国です。
そんな国の大使となる人には、いくつかの条件が求められると思います。
その条件とは、わたしが考えるに、まず「礼」のある人であること。
次に、「智」のある人であること。そして、総合的に「教養」のある人です。
丹羽氏からは、ご著書が刊行されるたびに送って下さいます。
わたしも、自分の新刊を丹羽氏に送らせていただいています。
すると、御多忙にもかかわらず、必ず丁重な礼状が届きます。
頭が下がるほど、「礼」を重んじられる方なのです。
「礼」とは「人間尊重」ということに他なりません。
おそらく、すべての人を尊重されている方なのでしょう。
「礼」はもともと孔子が最重視した思想です。もちろん、中国で生まれた考え方です。



また、「智」とは物事の善悪を知ることです。
総合商社のトップという最も過酷なビジネスの場に長年身を置きながら、丹羽氏はけっしてダーティーな部分に手を染めませんでした。
それどころか、財界人でこんなに正義感の強い方がいるのかと驚くほどです。
単に利益を追求することなく、国連WFP協会の活動などを通じて、常に社会への貢献というものを主眼とされてきました。わたしは、心から尊敬しています。
領土はもちろん、著作権への対処の仕方など、事の善悪がわかっていない中国の人々に対して、ぜひ持ち前の「智」で毅然とした態度で臨んでほしいと思います。



そして、丹羽大使ほど教養のある人はいません。
『負けてたまるか!若者のための仕事論』には、「人は読書で磨かれる」と書かれています。また、同書の最後で、大使に就任される前の丹羽氏は「教養というのは相手の立場に立って物事を考える力があること」と定義された上で、次のように述べています。
「どうしたら教養を身につけることができるか。
もちろん読書も大事です。そしてたくさんの人と接し、人間社会で揉まれることです。
自分の思い通りにならないことも多々あるでしょう。
そんなとき、なぜなんだろうと立ち止まってみる。自分に非はないかと謙虚に省みる」
こうした経験を積んでいくことで、相手の立場に立って物事を考えるということが少しづつわかる、つまり少しづつ「教養」がついてくるというのです。
このような教養についての考え方は、孔子にも通じます。
丹羽氏には、孔子のような「人間通」のたたずまいがあります。
丹羽氏以上に中国大使の適任者はいません。
日中両国にとっての明るい未来を拓くためには、何が必要か。
それは、丹羽大使の価値観を育てあげる力となった「孔子の思想」ではないでしょうか。
わたしは、日中の国交において、「仁」「義」「礼」「智」「信」が必要であると信じます。
何かお役に立てることがあれば、わたしは喜んで協力させていただきたいと思います。


2012年6月22日 一条真也