儒教講演

一条真也です。東京にいます。
今日は、素晴らしい講演を聴きしました。
ずばり、「世界一わかりやすい儒教の授業」です。孔子ならぬ講師は、立命館大学教授の加地伸行先生です。場所は、東京タワーの真向かいにある機械振興会館でした。


尊敬する加地伸行先生と



加地先生は、日本を代表する中国哲学者であり、儒教研究の最高権威です。
ブログ『孔子伝』で紹介した本の著者の白川静先生は、儒教の意味を知り尽くしておられる方でした。加地先生こそは白川先生の直径の愛弟子で、立命館大学白川静記念「東洋文字文化研究所」の所長も務められています。ブログ『祖父が語る「こころざし」の物語』でも書いたように、わたしは加地先生を深く尊敬しています。


加地先生と名刺交換しました



これまでにも、ブログ「混ざり合った日本の私」ブログ「社員でなく同志」ブログ『聖人の思想とその現代的意義』などで加地先生のことを書いてきました。
じつは、これまで加地先生とはお手紙のやり取りや電話でお話させていただいたことはありましたが、直接お会いすることは初めてでした。
講演前の会場の控室で御挨拶をさせていただき、名刺交換をしました。
加地先生は、わたしが講演を聴きにきたことを大変喜んで下さいました。
わたしも、敬愛する「現代の儒者」にお会いできて感無量でした。


講演される加地先生



加地先生は、「仏教的儒教儒教的仏教と〜葬儀の本質」というテーマで講演をされました。今日の講演を聴いて、わたしは本当に驚き、感動しました。なぜなら、これほど平易な言葉で語られた、わかりやすい講演を聴いたことがなかったからです。
わたしの著書に『世界一わかりやすい「論語」の授業』(PHP文庫)がありますが、加地先生のお話はまさに「世界一わかりやすい儒教の授業」でした。わたしは最前列に座って貪るようにお話を聴き、まるで速記記者みたいに大量のメモを取りました。


講演会のようす



加地先生が登壇されて盛大な拍手が起こりましたが、先生は「こんなに拍手をされたら、頑張らないと!」と言われ、いきなり笑いを取られました。
そして、講演の冒頭で「人間、必ず死にますがな!」「死ななかったら、大変よ!」と大きな声で言われ、聴衆を仰天させて下さいました。講演開始から12分が経過した時点で、「今、確かな事実が1つだけあります。それは、みなさんが12分、死に近づいたのよ、これは!」と言われました。もう、素敵すぎますね。
天下の大学者に向かって「面白い」と言っては失礼かもしれませんが、わたしはこんなに面白い講演を聴いたことがありません。何度も、腹を抱えて笑ってしまいました。
ふと、実際の孔子もこのように面白い講義をしていたのではないかと思いました。


関西弁で加地節が炸裂!!よろしーかー?



加地先生は稀代の講演名人ですが、そのポイントは関西弁にあるように思いました。
どちらかというと堅苦しく感じられがちな儒教の話の合間に「よろしいかー?!」「これが基本よー!」「違いますかぁー?」などの声が小気味良く入り、リズムがあって非常に聴きやすいのです。わたしも講演する機会は多いほうですが、正直、今日の加地先生の講演から講師としてのノウハウのようなものをたくさん学ばせていただきました。


熱心に講演を聴く人々



加地先生は主に仏教と儒教の違いを話されながら、「死」について、「霊魂」について、そして「死後の世界」について説明されました。
地獄についても詳細に話され、最後は「わたしは地獄へ行く!」「わたしは地獄に先に行って、みなさんを待っている!」と喝破されました。
これだけ、「死」を受け入れておられる方は初めてお会いしました。
いや、正確に言えば、かの丹波哲郎さん以来ではないでしょうか。


儒教の神髄を学びました



わたしの「死生観」に影響を与えた最大の人物は、孔子です。その孔子が拓いた儒教の神髄を1時間半にわたって碩学から学ぶことができ、本当に感激しました。
「祖先を大切にすることの意味」を説く加地先生は、日本が生んだ「仏壇」という文化について次のように述べられました。
「お仏壇は、聖なる空間にして、かつ家族の絆を強烈に意識できる、すばらしい日本特有のものである。お仏壇の前で、家族はともに泣き、ともに喜ぶことができるのである。それが家族主義の姿なのである。
もし家にお仏壇がなければ、あなたが作ればいいのだ。菓子箱でも段ボール箱でもいい、千代紙を貼って華やかな色調にしてもいいのだ。何も黒色でなくてもいいのだ。そして内部は3段にし、上段に仏様(おシャカ様でも観音様でも)を安置し、中段にはあなたの家の祖先の位牌を建て、下段には、向かって左から花瓶(花を活ける)・香炉(線香を点てる)・ろうそく立ての3つを置けばりっぱなお仏壇なのである。大切なことは、仏壇という<物>ではない。祖先と出会う<こころ>なのである」



わたしは『ご先祖さまとのつきあい方』(双葉新書)という本を書きましたが、そこでも仏壇の重要性を力説しました。また、最新刊『のこされた あなたへ』(佼成出版社)でも、いかに仏壇が残された遺族の心を慰めるかについて書きました。
加地先生の言われるように、仏壇とは亡くなった死者と出会う〈こころ〉だと思います。
また、加地先生は現在の日本の葬儀、特に東京における葬儀は焼香の作法などがデタラメであると言われていました。今日は、東京の業界関係者も多く来ていましたが、加地先生の話が身に沁みたのではないかと思います。


互助会保証の藤島社長と3人で



講演終了後は、主催者である互助会保証さんのはからいで「ティー・パーティー」が開催されました。わたしが「素晴らしい御講演、誠にありがとうございました。大変勉強になりました」とお礼を述べると、加地先生は「あなたが最前列にいたから、ちょっと話しにくかったよ」とニコニコ笑いながら言われていました。いやー、恐縮です!
それから、加地先生と色々と意見を交換させていただきました。


ティー・パーティーのようす


わたしが「家族主義の大切さはよく理解できますが、最近流行の家族葬についてはどう思われますか?」と質問させていただいたところ、加地先生は「家族葬の場合は、費用の問題、葬儀をあげるのが面倒という2つの問題がある」と言われました。
まさにその通りで、葬儀をきちんと行う煩わしさを避けるために、「家族」や「血縁」が隠れ蓑に使われている感があります。ちなみに、わたしは1人の人間は家族だけのものではなく、社会全体のものであると思っています。
ですので、現在の家族葬のあり方は再考すべきであると思っています。


神道&仏教&儒教を学ぶ最高のテキスト



今日は、敬愛する加地先生と心ゆくまでお話することができて、本当に幸せでした。
ブログ「混ざり合った日本の私」にも書いたように、わたしは日本人の「こころ」とは、神道、仏教、儒教の三大宗教によって支えられていると思います。
その三大宗教には、それぞれ最高のテキストが存在します。
神道の最高のテキストは、『神道とは何か』鎌田東二著(PHP新書)。
仏教の最高のテキストは、『私だけの仏教』玄侑宗久著(講談社+α新書)。
儒教の最高のテキストは、『儒教とは何か』加地伸行著(中公新書)。
いずれもコンパクトな新書本ですが、わたしは何度も読み返しました。
もちろん、それぞれの宗教を本格的に勉強しようと思えば、参考書は無限にあります。
しかし、この3冊は初心者にもわかりやすく書かれた極上の入門書だと思います。



わたしも、この3冊で基本を勉強させていただきました。そして、『知ってビックリ!日本三大宗教のご利益〜神道&仏教&儒教』(だいわ文庫)を書きました。
鎌田東二玄侑宗久の両先生とは一昨日お会いしました。
そして今日は、憧れの加地伸行先生に初めてお会いすることができました。
なんと、わたしは3日以内の間に、神道と仏教の儒教のシンボル的存在の先生方にお会いしたわけです。いやはや、なんたる僥倖! 
しかも、なぜか今日は13日の金曜日!(笑)
素晴らしいお話を聴かせていただいた加地先生、このような得がたい機会を与えていただいた藤島安之社長をはじめとした互助会保証の皆様に心より感謝申し上げます。


2012年7月13日 一条真也