解器(ほどき)

一条真也です。

天河大弁才天社に作られた天河火間。その「世界一美しい窯」で焼かれるものは何か。天河大弁才天社には、数々の神宝が存在します。そんな神宝の中に、空海が作ったとされる「灰塗りの弁財天像」というものがあります。造形美術家の近藤高広さんが3つからなる「灰塗りの弁財天像」の中央の像から型を起こすことに成功しました。
それを天河火間の初窯で焼き上げたのです。とても貴重なモノですが、わたしも1ついただきました。白い陶器の中に、なんともいえぬ優しい表情をした弁財天の顔がぼんやりと浮かび上がっています。少々嫌なことがあっても、この顔を見るだけで、すべての負の感情を消し去ることができそうです。

浮かび上がる弁財天像


さて、「世界一美しい窯」で焼かれるものは他にもあります。それは骨壷です。
それも、自分の骨壷、あるいが自分が愛する人の骨壷を自分で焼くのです。
自らの死を前向きに、そして粛々ととらえるために、日本には昔から、辞世の句を読む、歌を詠むなどの文化がありました。
現在、死を前向きに受け入れる文化が新たに生まれています。

骨壷を自分でつくるという活動がそれです。
造形美術家の近藤高弘さんは、骨壷ではなく「解器(ほどき)」と命名しました。「解脱」という仏教の精神を意味する「ほどく」をもじった造語で、「ほとけ」にも通じます。宗教哲学者の鎌田東二さんによれば、神道とは「むすび」の宗教で、仏教とは「ほどき」の宗教であるといいます。“生”を「むすび」ととらえることができるとしたら、その「むすび」固めた生命が「ほどかれていく」過程こそが“死”なのかもしれません。

鎌田東二さん製作の解器


天河火間という「世界一美しい窯」で最初の解器が焼かれました。
鎌田さんと岡野恵美子さん(東京自由大学事務局長)のお二人が、それぞれの亡くなられたお母さんのための解器を焼いたのです。
解器は、ちょっと特殊な仕方で作られます。それが、単なる「骨壷」とは異なるところです。一度作ったものを素焼きし、天河の護摩壇の中に投じて焼き上げます。が、それを一度こなごなに粉砕します。
そして、自分によってゆかりのある地で(鎌田さんは天河火間のところで作りました)、その粉々にしたものを新しい粘土に混ぜて作り直します。そして、さらに素焼きをしたのち、次の年の2月3日に行われる護摩壇野焼きの火の中に投じるのです。ですから、「解器」という新時代の骨壷は、素焼き2回、護摩壇2回、合計4回の火を経験してきているのです。そのようにして、念には念を入れて作られた骨壷は、鎌田さんいわく「念念入り骨壷」で、一般に市販している骨壷とはモノが異なってきます。世界でたったひとつの骨壷「解器」製作のムーブメントは、これから大きく広がっていく予感がします。新しい葬送儀礼のあり方のひとつではないかと思います。


2010年3月26日 一条真也