てっぱん・ラーメン・異界

一条真也です。

尾道の坂をずっと歩いていたら、お腹が空きました。
すると、ちょうど夕食の時間が近づいてきました。
そこで、食道楽で知られる「全互協の康夫ちゃん」こと山村直毅さんに尋ねました。
尾道って、何が旨いの?」と。それを聞いた彼は、ニヤリと笑いました。


                  「お好み焼き 村上」の前で

                    村上の店内のようす


山村さんが提案したのは、お好み焼きです。
そうです、NHK朝の連続テレビ小説「てっぱん」の舞台は尾道なのです。
いわゆる「尾道焼き」は、全国にその名を轟かせました。
山村さんは一番有名な「尾道焼き」の店をネットで調べたそうで、案内してくれました。
そこは、「お好み焼き 村上」というお店でした。
オバちゃんが1人でやっている、カウンター席が5席だけの小さな店でした。
わたしたちが入店したときは満席だったので、ビールを飲みながら待ちました。


                   砂ズリとイカがたっぷり!

                  これが、村上流・尾道焼きだ!


やっと順番が回ってきたので、わたしたちは迷わずに「村上流・尾道焼き」を注文。
オバちゃんが作るところを見ると、ソバはもちろん、砂ズリとイカがたっぷり入っていました。イカはわかるとしても、砂ズリにはちょっと驚きました。
でも、食べてみると、コリコリしてて美味でした。隣の席に座っていたお客のオバちゃんが話好きで、いろいろと「尾道焼き」について教えてくれました。
オバちゃんには息子さんが2人いて、それぞれ東京と大阪に住んでいるそうです。わたしが北九州から来たことを告げると、「次男の嫁が行橋の出身なんよ」とのこと。
また、オバちゃんいわく、「大阪はタコ焼きはうまいけど、お好み焼きはおいしくない」とか、「東京のモンジャ焼きは糊みたいなもんで食べられん」とか言っていました。
要するに、尾道焼きが一番おいしいということが言いたいのでしょう(笑)。



オバちゃんは、「とんこつラーメンは女の食べ物じゃない。男ならいいけど」とも言っていました。ラーメンといえば、尾道ラーメンも全国的に有名です。
オバちゃんのおススメを尋ねると、「朱華園」という店のラーメンが一番とのこと。
山村さんもネットで調べて知っており、「すごく有名な店ですよ」と言っていました。
いつも夕方には食材が切れて閉店するのだそうです。明日の昼にでも食べようかとも思いましたが、観光客が殺到する土日は戦場のようになるそうです。
親切なことにオバちゃんが朱華園に電話してくれて、まだ店が開いていることを確認してくれました。そこで、わたしたちはお好み焼きを完食したにもかかわらず、意を決して朱華園のラーメンを食べに行きました。


                     朱華園の前で

               これが人気No.1の尾道ラーメンだ!


朱華園は、予想していたよりもずっと大きな店でした。
ラーメンの味は、豚の脂が浮いているものの、基本的にあっさりしていました。
わたしたちは、そこでもビールを飲み、ラーメンを啜りました。
食べ終わると、さすがに腹がはち切れそうでした。山村さんも苦しそうです。
そこで、ホテルまでの数キロの距離を腹ごなしに歩いて帰ることにしました。
もう夕暮れ時で、あたりには人影があまり見えませんでした。


                   坂には、たくさんの墓が

                  この木は、異界への入口か?


大林宣彦監督は、名作「ふたり」で、「黄昏」を「誰そ彼」と表現しました。
夕暮れ時は人の顔がよく見えず、なつかしい死者に再会できるというのです。
「ふたり」のエンディングで大林監督自身が歌った「草の想い」という歌も印象的でした。
黄昏どきの尾道の街は、だんだん暗くなり、異界の雰囲気さえ漂ってきます。
ふと見ると、坂の途中にはたくさんの墓があることに気づきました。
この街では、実際に死者たちが生者とともに在るのかもしれません。
また、街路樹の中の1本の木が異様に膨らんでいました。
蜂の巣か何か、見たことのないような膨らみ方です。
ここでも異界を感じてしまいました。そして、ますます尾道が好きになりました。


2011年5月21日 一条真也